このたび、ケンジタキギャラリー/東京では、「若林奮展 - 水没」を開催いたします。今展では、若林奮氏の制作活動の全体像を探る上でも重要な鍵といえる「振動尺」という概念を、若林氏自身が2002年に再考、展開させようと試みた作品のひとつ「水没」シリーズより、立体作品「水没 I」「水没 II」およびドローイングを展示いたします。
「… 風景として集約されるような事柄。地質のこととか、気象とか、動物、植物、鉱物といった人間に関わる以外のものを見る機会が多くなる。人間についての唯一のものは、人間が描いた最初の絵はどのようなものであったかということです。… 美術の背景として大きな自然があったのです」
「彫刻は対象化した人間などは表現しない。むしろそれを行う人間の思考なり行動を表明するものと考えるなら、これは人間全体のことではなく、私個人のことになります。ここらあたりから出てくる問題によって気づいたことが、《振動尺》の発想のひとつになったのです」
(若林奮インタビュー : 2002年豊田市美術館発行図録 pp.102-103)
洪水や川の増水によって一変する風景を俯瞰するかのような「水没」。
自身と対象の間を満たす空間を測る尺度としての「振動尺」によって、若林氏は、間あるいは空間にある不確かなものを探ろうと試み、作品化してきました。若林氏はまた、自然界と人間との間の存在として、犬や犬の視点を作品に取り入れてきました。大量の紙片の集積による作品からは、時間という要素とも向き合った作家の姿が浮かび上がります。
1970年に若林氏が始めた考え方のひとつで、初期の作品タイトルにもなっている「振動尺」の再考、犬の視点、そして青く着彩された紙片の連なり。最晩年の作品、「水没」シリーズにより、若林氏の思索の跡を探ります。
若林奮(1936-2003)は、1973年に神奈川県立近代美術館にて個展、1980年と86年にベネチアビエンナーレに出品、87年には東京国立近代美術館および京都国立近代美術館で個展が開催されるなど、日本の現代美術を代表する彫刻家として常に注目を集めてきた。亡くなる前年の2002年には、豊田市美術館にて新作を含めた大規模な個展が開催される。
若林 奮 (わかばやし・いさむ)
1936 東京町田に生まれる
1959 東京藝術大学美術学部彫刻科卒業
1973/74 文化庁芸術家在外研究員としてパリに滞在
1996 第27回 中原悌二郎賞受賞
2003 平成14年度 芸術選奨文部科学大臣賞受賞
2003年10月没
若林奮 展覧会歴
主な展覧会
1959年 初個展:みつぎ画廊(東京)
1973年 「若林奮デッサン・彫刻」神奈川県立近代美術館
1980年 第39回ベネチアビエンナーレに出品(イタリア)
1986年 第42回ベネチアビエンナーレに出品(イタリア)
1987年 「今日の作家 若林奮」東京国立近代美術館/京都国立近代美術館
1992年 「語り出す鉄たち - 今日の金属彫刻から 」 東京都美術館
1995年 「若林奮 - 素描という出来事」東京国立近代美術館
1996年 「煙と霧 - 若林奮」足利市立美術館/郡山市立美術館/山形美術館
1997年 「若林奮 1989年以後」名古屋市美術館/神奈川県立近代美術館/ 大原美術館/高知県立美術館
1997年 個展 マンハイム市立美術館(ドイツ)
1998年 個展 ルードヴィッヒ・フォーラム・アーヘン(ドイツ)
2000年 個展「若林奮 - 鉄の沈黙 ・緑の言葉」あさご芸術の森美術館(兵庫)
2000年 「芸術と自然」美濃加茂市民ミュージアム(岐阜)
2001年 「生きろ」クレラー・ミューラー美術館(オランダ)
2002年 「若林奮」豊田市美術館(愛知)
2002年 「融点・詩と彫刻による」うらわ美術館(埼玉)
2003年 「若林奮ー振動尺をめぐって」川村記念美術館(千葉)
2004年 「所蔵作品展 若林奮」東京国立近代美術館[2階ギャラリー4](東京)
2005年 「若林奮 くるみの樹 DRAWING 1999-2003」多摩美術大学美術館(東京)
2005年 「若林奮 デッサンと彫刻のあいだ 版画展」世田谷美術館(東京)
2006年 「縄文と現代」青森県立美術館(青森)
2006年 「彫刻なるもの − 川島清・土谷武・若林奮の作品から」いわき市立美術館(福島)
2007年 「若林奮 DAISY 1993-1998」多摩美術大学美術館(東京)
2008年 「若林奮 − VALLEYS」横須賀美術館(神奈川)
2010年 「若林奮 Dog Field DRAWING 1980-1992」多摩美術大学美術館(東京)
ケンジタキギャラリーでは、1999年個展「犬は旋回する」(名古屋)、2000年 個展「硫黄の味方」(名古屋)、2001年個展「樹皮と空地」(東京)、2002年個展「若林奮 新作展」(名古屋)、2003年個展「銅・弧」ケンジタキギャラリー(東京)などを開催。
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