今村 哲 展 – DALISH HOTEL – (Nagoya 2001)
Tetsu Imamura
2001
Dalish Hotel

当ギャラリーでは初の個展となる「今村 哲 展」をギャラリーの2階展示室で開催。
今展では、巨大なインスタレーションの中に絵画を設置して、あるホテルの物語を見せる。
今村哲は、1961年ボストン生まれ。1986年愛知県立芸術大学大学院修了。現在三重県に在住。蜜蝋と顔料などを素材にした柔らかな質感の絵画を主に制作。また、作家自身が作ったテキストを並置したり、テキストとインスタレーションを組み合わせた展示を行う。
今村哲の、いかにも「作り上げた」文章、そしてフラッシュバックような淡くしかし鮮やかなイメージ。フィクションと確信しているはずの世界が、妙に生々しく体験させられる。
尚、今村哲は2002年1月19日より東京都現代美術館にて開催予定のMOTアニュアル2002「フィクション? - 絵画がひらく世界」にも出品します。
人はバナナしか食べなかった。
寝ても覚めても、バナナばかり食べていた。
あるとき、領主達が言い争いになった。
バナナは、上向きにはえているのか、
下向きにはえているのか。
戦争になって、大勢死んだ。
で、バナナの祭壇をつくった。
上向きバナナ、下向きバナナでこさえた像を祭った。
平和がおとずれた。
以後、バナナは神聖にしておかすべからずものとして
二度と口にすることはなかった。今村哲: 「バナナの祭壇」1997年作品より
“Dalish Hotel”
ダリッシュ ホテル
2001
インスタレーション
絵画12点、テキスト、木造構築物
絵画:パネル、綿布、蜜蝋、アクリル、顔料、他
1. お腹の穴 70 x 70 cm
2. 双子 70 x 70 cm
3. トンネルの向こう側 123 x 123 cm
4. 砕けた水晶玉 123 x 123 cm
5. 宇宙飛行士 123 x 123 cm
6. ヤギ 123 x 123 cm
7. 腕が頭を持ち上げる 70 x 70 cm
8. コカコーラと落下する水が与えられたら 70 x 70 cm
9. トラシュラス 70 x 70 cm
10. さまようウルトラマン 70 x 70 cm
11. 天井に咲く花 180 x 90 cm
12 一本線の両端 70 x 70 cme



おじいさんのおなかには、大きな穴が開いていた。
戦争に行ったとき、弾が突き抜けたのだ。
風呂屋で、おじいさんと世間話をする人は、おじいさんのおなかごしに、体を洗う人が見えたものだ。
時々なぜか、おじいさんの使ったあとの湯舟に舟のおもちゃが浮いていた。
そんなおじいさんが倒れて、僕がおじいさんのお世話をすることになった。
おじいさんには、もう意識はなかったけれども、いつも笑みを浮かべていて、とっても幸せそうだった。
ある日、いつものようにお風呂に入れてあげるとき、十年ぶりにおなかの穴をのぞくと、そこに見えたのは美しい海と、ぽっかり浮かぶ島の光景だった。
柔らかい光の中、おじいさんが舟の上に寝そべっているのが見えた。
あまりの心地よさに、漁に出たことなんぞすっかり忘れて、ただただ気持良さそうに穏やかな波間を漂っていた。
おじいさんが、何故あんなにもいつも幸せそうな笑みをうかべているのかが、わかったような気がした。
それから、おじいさんをお風呂に入れてあげるたびに、おなかの穴を覗いては、舟のおじいさんと島の様子をうかがうのが僕の習慣になった。
あるとき、漁に出たきり帰ってこない人達に、業を煮やした島の人々は、島のてっぺんにグロテスクな灯台を建てた。
島に帰港することをも忘れ、ただただ海を漂っていた人達も、完全な調和をもったその景色を乱すグロテスクな灯台を見て我に帰り、舟を島へ向けた。
おじいさんの舟も島に戻っていった。
その次の朝、おじいさんが亡くなった。
僕は、そっと、おじいさんのおなかの穴をのぞいてみた。
穴は、きれいにふさがっていて、あとかたもなかった。今村 哲「腹の穴」- Daliash Hotel 2001より
